サッカーにビデオ判定は導入すべきか?
スペインの初優勝で幕を閉じた2010年南アフリカワールドカップ(以下W杯)、アフリカ大陸で初めてのワールドカップとして、南アフリカの治安の悪さやインフラ設備の問題がマスコミで大きく取り上げられていたが、当初懸念されていた問題は何も起こらず大会としては大成功に終わった。
その様な中でも、日本が自国開催以外で初の決勝トーナメント進出ことには驚かされた。開幕前の不振の影響もあり、代表人気もかつてないほど低迷していた。しかし、日本が勝つにつれて、日本中が湧いていった。惜しくもパラグアイに敗れてベスト8進出は逃したが、W杯という世界最大の祭典の持つ魅力と影響力を改めて感じた。
しかし、今大会で最も注目を浴びたのが、誤審問題であった。誤審問題が起きたのは、決勝トーナメント1回戦のドイツ対イングランド戦とアルゼンチン対メキシコ戦である。ドイツ対イングランド戦ではイングランドのフランク・ランパード選手が放ったループシュートがゴールラインを越えたものの、ノーゴールと判定され、結果としてイングランドはドイツに1−4というスコアで大敗を喫した。また、アルゼンチン対メキシコ戦では、アルゼンチンのカルロス・テベス選手の先制点が明らかなオフサイドポジションであったにも関わらずゴールとして認められ、メキシコも1−3というスコアで敗れている。
世紀の大誤審として、世界中の議論の的となった今回の誤審問題。もともとサッカーというスポーツは人間が裁く以上、多少のミスは「しょうがないもの」として許されていた。そのため、FIFA自身もビデオ判定の導入に踏み切れずにいた。しかし、今回のW杯では上記で述べた以外にも、様々な重要な局面で勝敗を左右するほどの誤審が相次いだため、問題視せざるえない状況になった。
私自身も今回の南アフリカワールドカップをTVで観戦していた時、首をかしげたくなるようなジャッジをたびたび目にした。だからこそ、今回の論文の課題にこの「サッカーにビデオ判定は導入すべきか?」というテーマ設定し、この問題を様々な点から論じていきたい。
まず、この問題を論じる前に、現行の審判制度について述べて行きたい。サッカーは通常のゲームにおいては主審1人、副審2人で行われる。これ以外に競技会規定に基づいて任命される第4の審判員を1人配置する場合がある(第5の審判員を置く場合もある)。
主審
競技規則を施行し、競技規則の範囲におけるすべての権限を有する。主に競技規則のあらゆる違反に対して、主審の判断により試合を停止、中断、中止する権限や、競技者の反則行為に対して警告、退場処分の施行、得点の判断、試合の結果の判断である。
副審
フィールドの両サイドに各1名配置され、主審を支援する。コーナキック、ゴールキック、スローインをどちらが行うか、オフサイドの有無を、フラッグを掲げて主審に合図。これらの最終決定は主審が行う。
第4の審判員
3名の審判(主審1、副審2)が職務続行不可能な場合にその代わりを務める。このうち第4の審判員がどの役割を務めるかは事前の協議、大会規則に依る。また、選手交代時にボードを掲げたり、ロスタイムの時間をボードで掲げる。
ここに挙げた以外でも、追加副審や、第5の審判員なども存在する。
なぜ、今大会はこれほど誤審が目立ったのだろうか。それは、サッカーの高速化によって、審判に求められるレベルが高くなってきているからだ。スペイン代表を見ればわかるように、ワンタッチで素早くパスをまわすチームが増えてきている。さらにボールの改良により、シュートも速くなっている。以前に比べてプレースピードが格段に上がっている。もはや主審と副審を合わせた3人の“眼”だけでは、ピッチをカバーし切れなくなってきたことに、多くの人が気づいている。今季、UEFA主催のヨーロッパリーグでは、ゴールのすぐ脇に立ち、ボールがラインを割ったかを判定する審判5人制を試験導入した。
また問題は、審判の人数とは別の部分にもある。W杯は各大陸から審判が集められており、決して世界の審判リストの上位から30人が大会に来ているわけではない。もし、本当にトップの審判を集めたとしたら、ドイツとイングランドから7、8人の審判が呼ばれるはずである。ヨーロッパでさえ、日常的にチャンピオンズリーグのようなレベルの高い試合で笛を吹くことができる審判は限られている。ましてその他の地域では、ハイスピードのプレーに触れる機会がもっと少ないはずである。このように日々進化しているサッカーを前にして、現在の審判制度には限界があることを露呈している。
ここからは、テーマに基づきビデオ判定を導入することでの、メリットとデメリットについて挙げていきたい。
・メリット
1 ジャッジの正確性が向上する。審判の目が増えるため、きわどいプレーや普段は見逃してしまうプレーも何度も確認することができる。また選手自身も、シュミレーションやダイブといった審判を欺くプレーも容易にできなくなるため、フェアプレーに徹するようになる。
2 審判の負担が軽減する。審判は試合を通して集中力を保ち続けなければならい。またミスジャッジなどは試合後に、選手側やメディアに激しく咎められる。そのため審判は過度のプレッシャーにさらされることになる。
・デメリット
1 試合中ビデオ判定を行う度にプレーを止めなければならないため、試合のスピードが落ちてしまう。これがビデオ判定導入にあたっての最大の障害である。
2 IFAB(国際サッカー評議会)によると、サッカー界に最新技術を導入することになると、莫大な費用が掛かってしまうという研究結果が出ている。
続いて、様々なスポーツのビデオ判定を導入例を示したい。代表例として、アメリカンフットボールのインスタント・リプレイやテニスのチャレンジが特徴的である。これは審判の判定に対して異議がある場合、審判にビデオ判定を要求できる権利である。異議が認められた場合は、問題の判定を覆すことができる。この制度の面白いところは、アメリカンフットボールの場合はタイムアウト1回分の権利、テニスの場合は1セットに3回まで使えるチャレンジの権利を賭けて行うことになる。これが試合の流れを変えることになりかねないため、観客自身も楽しめるショー的要素も含まれる。
ここまでの様々なデータを吟味した結果、私は仮説は「サッカーにビデオ判定を導入すべきではない」と立てたい。以下の3点を理由にこの結論に至った。
はじめにデメリットの面でも挙げたが、「試合のスピードを落としてしまうことである。」アメフトのインスタント・リプレイやテニスのチャレンジといったように判定要求に制限を加える要素を組み込めばよいと考えるかもしれないが、これらのスポーツとサッカーには決定的な違いがある。テニスやアメフトにはターン制が存在するため、プレーが止まる時間がある。しかしサッカーというスポーツはハーフタイムを除き原則プレーが止まる時がない。そのため判定ごとに試合を止めてチェックしていれば、試合のリズムを壊すばかりか、試合の流れすら変えてしまうことになりかねない。
続いて、FIFA(国際サッカー連盟)会長であるジョセフ・ブラッター氏の意見を参考にしたい。「FIFAが考える主要目的の1つに、試合における平等性を守るということがある。これは、『サッカーの試合は、世界中のいかなる場所でも同じ方法により実施されなければならない』ということを意味する。小さな村の子供たちによる試合も、テレビ中継されるようなプロ選手による試合も、同じルールにのっとって行われるべきだ」この考えには私も全面的に参成である。資金面から考えて、世界中の試合でビデオ判定を導入するのは不可能である。それでは、W杯やCLのような国際的なビッグトーナメントや、資金力や人気のあるリーグだけのルールにすうのだろうか?しかし、これではルールが適用されているチームとされていないチームが戦うような場合には地域格差が生まれてしまう。このように、たとえビデオ判定を導入したとしても、平等性という面では疑問が残る。
3つ目の理由として、「サッカーは人間によって裁かれるべきである。」確かに平等性の確保というものはスポーツにおいて最も重要視せねばならない問題である。しかしスポーツという「人が裁く」ということもまた重要な要因であると私は考える。サッカーはフィールドに立つ22人のプレイヤーだけではなく、その試合を裁く審判たちすべて含めて構成されていると私は考える。そこにはスータープレイヤーが織りなすスーパープレーだけではなく、普段は隠れて見えにくいが審判たちのすばらしいジャッジも存在する。そのためビデオ判定を導入することは審判たちの権威を一方的に軽んじてしまうことになりかねない。
終わりに、ここからは誤審問題に対しての私なりの解決策を論じていきたい。この解決策とは、やはり審判の質の向上にあると私は考える。しかし、審判のレベルはいかにして向上するのか?FIFA国際レフェリーが最も多い国、ドイツの審判育成事情が参考したい。そこでは、審判は若いときからスペシャリストを育てることが重要であり、各地域に教官を置き、講習会を開くなど、若手の育成に力を入れている。それだけではない、ドイツでは審判の地位が非常に高い。2部以上になるとポストカードが売られ、子どもからサインをねだられるほどである。だからこそ、審判として名を成そうと野心を持つ者も少なくない。このように、審判のレベルを上げるには、協会だけではなく、ファンやメディアも含めて、審判を目指すに値する雰囲気を作っていくことも重要なのである。
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